星空の下
夜の庭園に立って、夜空を仰ぎ見てみればそこには壮大な星空が広がっていた。
まだ冷たい夜風が吹き抜けるその場所で、ラブラドールはそんな星空を見つめて立ち尽くす。
どこまでも広がる空は、夜の闇にも飲み込まれない程の輝きを放つ星で溢れていて幻想的。同じ輝きの星なんて
ひとつもない。強い輝きのもの、弱い輝きのもの、そんな闇夜に見え隠れする
ほんの小さな星の輝きを目にして、ラブラドールはまるで自分達のようだと思った。
「ラブ、こんな所にいたら凍えてしまいますよ」
冷え切った身体にふわりと温かいものがかけられて、振り向いたそこには同じコートを羽織るカストルが立っていた。
「大丈夫。ほら、カイロもちゃんとあるし」
ゴーストである自分達は熱を生み出せない体であって、寒さに弱い。温かくしてないと凍えてしまうからって、
カストルはいつも心配しすぎなんだよ。そう言葉にする代わりに微笑みで返した。
「それにね、ここからの夜空はすごく綺麗で好きなんだ」
普段は人になりすまし、けして自分達の正体を知られてはいけない。いつもは隠れているけれど、いざという時には
教会の平和を守る重要な役割を果たす。そんな所が、昼間は隠れているけれど、夜になったら存在感を示す星々に
似ていると思ったのかもしれない。
「今夜は特に綺麗ですね」
「うん、そうだね」
お揃いのコートの前をきゅっと閉めて、視線は再び夜空へと移した。
空の終わりなんて存在しない。世界はこんなにも広い。そんなどこまでも果てしなく繋がる空の下、こうして
カストルとふたりでいれる事は奇跡に近いんだといつも思う。それも同じ存在同士で、惹かれあって、恋に焦がれていて。
(僕はカストルに依存しすぎだね…)
思わず苦笑じみた笑みがこぼれた。
「カストルが優しすぎるから悪いんだよ…」
「ラブ?何か言いましたか…?」
「気にしないで、ただの独り言」
ラブラドールより背丈の高いカストルのコートを少しだけ引き寄せて、唇に触れるだけの口づけを落とした。
お互い熱を持たないはずなのに、触れた所からは熱いほどの熱が生まれる、錯覚。
僕はカストルに出会えてすごく嬉しいんだ。
驚きを隠せないカストルにくすりと笑った唇は、今度はカストルによって塞がれた。
「…そうだカストル、後で渡すものがあるから楽しみにしてて」
「なんです?」
「知らない?今日はバレンタインだから」
「それは…、本命だと思ってもいいのですよね…?」
「もちろんだよ?」
弾む笑い声は星空の下で響きあう。
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11/02/14