「お誕生日おめでとう、カストル」
日付が変わったのを確認して伝えた言葉にカストルは一瞬驚いて、優しく微笑んだ。
「…この為に、今日は遅くまで起きていたのですね」
「カストルに一番に伝えたくて」
苦笑して伝えた言葉に滲み出る感情はまぎれもない本心で、ラブラドールは煎れたてのハーブティーを
カストルの前に置いた。心地好い眠りを誘ってくれるカモミール。水面で揺れる花びらはまるで今日の日
を祝福しているかのように優しく揺れた。
日付が変わるのを待っていたのは一番にカストルを祝福したかった、という理由だけではなくて。朝にな
ると早起きのシスター達から囲まれて祝福されるカストルの姿が想像できるから、カストルを独り占めで
きるこの瞬間は毎年大切な時間なんだ。
「今年も、カストルにとって嬉しい事がたくさんおきるよ」
白い湯気が漂うカモミールティーを一口味わって、同じくグラスに口をあてたカストルをみた。
すうっと遠くを見透かすような瞳でカストルを捕らえたら、みえた映像に優しく笑う。
「誕生日だから、特別に預言」
そう言って、驚いた表情をしているカストルにもう一度微笑んだ。
あまり故意には使わないこの力も、こんな時には役に立つよねなんて心の隅で思いながら。
「…それは、ラブが今まで以上に私の傍にいてくれる、ということでしょうか?」
「…何で、そう思うの…?」
「私にとって一番の喜びは、あなたと一緒にいれることですから」
もったいつけるように、グラスに触れたカストルの唇が弧を描いた。そして流し込まれるカモミール色に
染まった液体がカストルの喉を鳴らす動作に、思わずラブラドールは見入る。
「…安心して、僕にはカストルしかいないから」
上昇する熱をごまかすように口にした言葉とみえた未来に偽りは何もない。君がひとつ歳を重ねても、
GHOSTである僕らの関係はなにひとつ変わりはしないから。グラスから離されたカストルの唇に、ラブ
ラドールは自分の唇を重ねた。カモミールの香りのする、カストルの温度を感じながら。
「おめでとう、カストル」
「ありがとうございます、ラブ」

君に捧げるこの未来
2010/12/24
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